どんな技法で制作されたか?
藤田の三点の原版は、エッチングという銅版画のひとつの技法で制作されています。
エッチングの技法を簡単に解説します。まず、銅版の表面をグラントという防蝕剤で覆います。その上から、ニードル(先端のとがった描画用具)で絵を描いていきます。描きあがった銅版は、腐蝕液(硝酸か塩化第二鉄液)につけます。時間経過により、刻まれた線描部分だけが腐蝕されて深い腐刻線が生まれます。銅版画の原版はこのようにして作られます。
刷師の仕事はここからです。銅版にインクをまんべんなく塗ります。線刻の凹部分にインクが行き渡ったことを確認し、平坦部のインクを完全に拭き取ります。ほんのわずかでも残っていると、紙に汚れとして刷られてしまいます。適度に湿った用紙を銅版に合わせ、プレス機にのせて圧力をかけます。刷りあがった版画は、乾いた紙にはさんで、湿り気を完全に抜きます。
刷りの以上の工程には、約3日間を要します。一日の制作で完成するのは、約30枚が限度となります。インクは、強い圧力で紙のなかに押し入れられるだけでなく、用紙の上にもわずかに盛り上がって残ります。緩急、強弱さまざまな描き手の微妙な線の感情が、紙の中と表面にすべて立体的に刻印されます。
インクジェットプリントなど、最新の印刷技術は、高精度の画像をプリントしますが、それはあくまでも紙の表層での再現です。エッチングは紙と一体になった線を生み出すので、両者を並べて実見すると、その圧倒的な線の質感の違いを知ることができるでしょう。
【用紙について】
銅版画は、紙だけでなく布や皮などにも刷ることができます。
今回の三作品は、B.F.Kリーブスというフランスから輸入した、版画の専用紙を使いました。コットン100%の温かみのある白は、線の表情を豊かに演出してくれます。ほとんど変色もなく、500年以上の耐久性を歴史が保証しています。
【刷り部数について】
銅版画原版からじかに刷るのではなく、原版を保護して刷るために、宝飾品や精密機器にほどこす特殊な技術で、銅版の表面を一時的に極薄の硬化クロムメッキ加工で覆いました。表面に加工があるとはいえ、数ミクロンの線も完全に再現しています。予定部数の刷り終了後、メッキは完全に剥がされ、原版面は当初と同じ状態で永遠に保存されます。
ただ、原版はきわめて貴重な文化財なので、万一、表面の摩耗などが起こりそうになった場合は、刷りは中止されます。したがって、今回の各予定刷り枚数に達しないで制作が中止されることもあります。